東京大学 2024年度A-セメスター 月曜日5限目
   教員名:Hermann Gottschewski
   連絡先:gottschewskiアットfusehime.c.u-tokyo.ac.jp
   科目名:音楽論
   テーマ:日本近代における斉唱される歌:第一高等学校の寮歌を中心に

授業の目的

授業の進み具合に従って資料等をアップします。

2024年10月07日

明治以降のさまざまな「斉唱される歌」

・明治7(1874)年〜:キリスト教の讃美歌集出版
一次資料・参考文献
明治の讃美歌集の復刻版(案内)
手代木俊一著『明治と讃美歌:明治期プロテスタント讃美歌・聖歌の諸相』 (本文へのリンクあり))
10月21日追加:
日本の最初の節付き讃美歌集:「Utato Fuçi(宇太登不止)」(=「歌と節」、明治9(1876)年、バプテスト教会派)
日本の最初の五線譜付き讃美歌集:『讃美歌並楽譜』(明治15(1882)年、組合派)
歌詞のみの讃美歌集の一例:『讃美歌』(十字屋、明治15(1882)年)
複数のプロテスタント宗派が共通で出している最初の讃美歌集:『新撰讃美歌/Hymns and Songs of Praise』
   歌詞のみの初版(明治21(1888)年)
   五線譜付きの初版(明治23(1890)年)
   ソルファー譜付きの初版(明治24(1891)年)
・明治10(1877)年〜17(1884)年:宮内省式部寮編「保育唱歌」、「皇典講究所唱歌」
一次資料・参考文献
『保育唱歌』:お茶の水女子大学所蔵の清水たづ写本(本文へのリンクあり)
『皇典講究所唱歌』:早稲田大学所蔵の写本(タイトルは「唱歌譜」) 資料情報 本文へのリンク
Hermann Gottschewski: “Nineteenth-Century Gagaku Songs as a Subject of Musical Analysis: An Early Example of Musical Creativity in Modern Japan” (Nineteenth Century Music Review,10 (2013), pp 239-264 PDF (英語)
10月21日追加:
最初の『保育唱歌』(冬燕居(ふゆのまどゐ)):Franz Eckertが1880年にドイツの雑誌で出版した編曲
東京女子師範学校の校歌『学の道』(保育唱歌、清水写本PDF 148枚目):ゴチェフスキの五線譜化による
・明治15(1882)年:権田直助編述『神教歌譜』出版
一次資料・参考文献
国立国会図書館所蔵『神教歌譜』(情報、本文へのリンクあり)
ゴチェフスキ著「権田直助編述『神教歌譜』について」 (2007年の研究報告書より)
・明治15(1882)年〜明治20(1887)年:文部省音楽取調掛編『小学唱歌集』(全3篇)『幼稚園唱歌集』出版
一次資料・参考文献
国立国会図書館所蔵『小学唱歌集 初編』『小学唱歌集 第二編』『小学唱歌集 第三編』『幼稚園唱歌集』
櫻井雅人/ヘルマン・ゴチェフスキ/安田寛 共著『仰げば尊し― 幻の原曲発見と『小学唱歌集』全軌跡』東京堂出版2015年

2024年10月21日

今回のテーマは「明治中期までの歌の楽譜史料」です。新しい資料は前回のところに追加しました。

2024年10月28日

明治(以後)の日本人の音感:音階を中心に

近代日本の音楽に使われる主な音階(PDF)

・旧ベルリン大学で録音された蝋管による20世紀初頭の歌
聴覚資料:Graf Dr. R. Goto (多分後藤新平のこと)が歌う歌
AbrahamとHornbostelによる1903年に出版された論文(344頁にこの蝋管の解説、347頁に一部の採譜がある)
・明清楽(みんしんがく)に関する参考資料
出版物(一次資料):国立国会図書館が所蔵する明清楽の一次文献(明治時代)
明清楽の楽譜を読み解く:「工尺譜」について(wikipedia)
明清楽の詳しい解説
SPレコードに残る明清楽の演奏(器楽のみ、youtube):沙窓 月花選 (曲名不詳) 太湖船 
長崎に今日なお伝承される明清楽(youtube)

2024年11月04日

斉唱する歌の韻律:明治期を中心に

・今まで扱った歌の言語的形式について(情報提供・資料紹介)
讃美歌と小学唱歌集の場合:歌詞の形式は原則的に既存の(西洋の)メロディーに従う
ただし小学唱歌集の場合は讃美歌よりも歌いやすさを目的で工夫した事例が多い
音楽取調掛における歌詞研究の一例:原歌の細かい区切りに基づく詞作(上伊那の伊澤文庫より)
・11月11日追加:それに対して讃美歌の作者たちは詩としての言葉を重視していたかもしれない。
 ・『新撰讃美歌』(1890年の五線譜版より)における七五調および短歌系の事例。
 ・讃美歌 There is a happy land の事例:イギリス・スコットランドの原歌 『讃美歌並楽譜』(1882年)
          『小学唱歌集』初編(1882年) 『譜附基督教聖歌集』(メソジスト派、1895年)

保育唱歌、皇典講究所唱歌、神教歌譜の歌詞は基本的に全て短歌(五七五七七)または長歌(五七五七・・・五七七)
初期の保育唱歌の翻訳過程(「冬燕居」の場合、ドイツ語→英語→文語→長歌):ワードファイル PDF
中期、後期の保育唱歌や皇典講究所唱歌の歌詞は原則的に古典文学(万葉集、勅撰集等)より選定された短歌・長歌
・狭義の七五調(七五七五・・・)で歌う
平安後期からの今様(いまよう)は「七五七五七五七五」
同じく平安から明治まで初等教育に使われた往来物(おうらいもの)も原則的に七五調で作られている
謡曲(ようきょく)等も七五調を基本とする
讃美歌、小学唱歌集等にも、少数だが、七五調のものが含まれている
明治の新体詩も、「新しい詩型」を主張するにもかかわらず、大多数は七五調
多くの軍歌の模範となった「抜刀隊」(外山正一作詞、ルルー作曲、明治18年)の歌詞は「七五七五」の繰り返し 明治25年の数字譜版 音源1 音源2
戦前の教育で多用された祝日大祭日歌詞並楽譜(1893年8月12日公布、保育唱歌と小学唱歌集の音楽様式を折衷したもの)も、「君が代」以外は全て七五調
大正時代までの寮歌の大多数は七五調(「七五七五 七五七五」と「七五七五 七五七五 七五七五」が多い)
明治44年〜大正3年の『尋常小学唱歌』(第一学年〜第六学年用6冊)にも七五調の歌が圧倒的に多い
・今回以下の寮歌(いずれも初期のもの)のいくつか扱ってみたいと思っている
「思へば遠し」初期のヴァージョンと解説(吉田健彦) 現行ヴァージョン(『寮歌集』平成16年)
「アムール川の」初期のヴァージョンと解説(吉田健彦) 現行ヴァージョン(『寮歌集』平成16年)
「春爛漫の」初期のヴァージョンと解説(吉田健彦) 現行ヴァージョン(『寮歌集』平成16年)
「嗚呼玉杯に」初期のヴァージョンと解説(吉田健彦) 現行ヴァージョン(『寮歌集』平成16年)
註 「アムール川の」、「春爛漫の」および「嗚呼玉杯に」については2019年の授業資料も参照

2024年11月11日

主に前回紹介した資料に基づいて授業を進めます。

・参考文献 権藤敦子著「明治・大正期の演歌における洋楽受容」(東洋音楽研究 第53号 (1989) )

2024年11月13日

今回歌う寮歌:明治・大正の代表的な3拍子寮歌『太平洋の』と『若紫に

 今日のテーマは「楽譜読めない人々によって伝わる歌、そして初期の寮歌」
  ・明治時代の歌の変化については前回ホームページに載せた権藤先生の論文を参考にしたください。
  ・寮歌集に載っているもっとも古い歌は部歌のトップに載っている「端艇部部歌」(明治23年)
  ・その次にできたのは「大」寮歌集の2ページに載っている「寄宿寮歌」(明治25年)
  ・明治28/29年には当時あった四つの寮それぞれ寮歌ができる
  ・明治31年より毎年各寮の新しい寮歌が作られる
  ・明治35年以後創られる寮歌は数字譜とともに発表される
  ・一高出身の大学生による「寄贈歌」も明治35年以来
  ・明治37年『寮歌集』初版
  ・明治の寮歌はすべて「校友会雑誌」に発表される(主に三月号)

2024年11月18日

今回歌う寮歌:「弱起」で始まる各時代の寮歌:
  明治:『比叡の山の』(第十五回紀念祭寄贈歌、明治38年)と『水泳部部歌』(「狭霧はれゆく」、明治43年)
  大正:『東和寮落成紀念歌』(第二十九回紀念祭?、大正8年)と『端艇部應援歌』(「嗚呼向陵に正氣あり」、大正9年)
  昭和(本郷):『手折りてし』(第四十三回紀念祭寄贈歌、昭和8年)
  昭和(駒場・新制東大):『あえかなる』(第七回駒場祭寄贈歌、昭和31年)

2024年12月2日

今回歌う寮歌:『新墾の(にいはりの)』(第四十七回紀念祭寮歌、昭和12年)

 今日のテーマは「作曲問題から見た五七調の寮歌 その1:大正まで」です。
 以下は大正末年までの広義の五七調寮歌(「五七」で始まるもの)を羅列します。
  第二十二回紀念祭寄贈歌(明治45年)『春は來ぬ』(大寮歌集(H16)116頁)
  第二十二回紀念祭寮歌(明治45年)『荒潮の』(楽友会作歌作曲、元来前奏を含む男声三部曲、明治45年4月3日の校友会雑誌に未掲載)(大寮歌集(H16)119頁)
  第二十八回紀念祭寄贈歌(大正7年)『蘇る春の』(大寮歌集(H16)175頁)
  第三十三回紀念祭寮歌(大正12年)『流れ行く』(大寮歌集(H16)199頁)
  第三十四回紀念祭寮歌(大正13年)『暁星の光消えゆき』(大寮歌集(H16)202頁)
  第三十四回紀念祭寄贈歌(大正13年)『宴して今日』(大寮歌集(H16)205頁)
  第三十五回紀念祭寮歌(大正14年)『橄欖の梢の尖に』(大寮歌集(H16)209頁)
  第三十六回紀念祭寄贈歌(大正15年)『人の世の』(大寮歌集(H16)215頁)

2024年12月9日

今回歌う寮歌:『風荒ぶ』(第四十三回紀念祭寮歌、昭和8年)
    参考:昭和八年の寮歌集より  昭和十年の寮歌集より  2019年の授業の授業の11月26日もご覧ください。

 今日のテーマは「作曲問題から見た五七調の寮歌 その2:昭和七年まで」です。
 以下は昭和二〜七年の五七調寮歌です。
  第三十七回紀念祭寮歌(昭和2年)『たまゆらの』(大寮歌集(H16)216頁)
  第三十八回紀念祭寮歌(昭和3年)『さ霧這ふ』(大寮歌集(H16)219頁)
  第三十八回紀念祭寮歌(昭和3年)『仄々と朝明けにけり』(大寮歌集(H16)221頁)
  第三十九回紀念祭寮歌(昭和4年)『白雲の向伏す』(大寮歌集(H16)222頁)
  第三十九回紀念祭寮歌(昭和4年)『しじまなる』(大寮歌集(H16)223頁)
  第三十九回紀念祭寮歌(昭和4年)『八重汐路』(大寮歌集(H16)224頁)
  第三十九回紀念祭寄贈歌(昭和4年)『彼は誰れの』(大寮歌集(H16)225頁)
  第四十回紀念祭寮歌(昭和5年)『群雲を紅染めて』(大寮歌集(H16)231頁)
  第四十一回紀念祭寮歌(昭和6年)『彩雲は』(大寮歌集(H16)233頁)
  第四十一回紀念祭寮歌(昭和6年)『朝あくる』(大寮歌集(H16)234頁)
  第四十一回紀念祭寄贈歌(昭和6年)『ふるさとの歌の調べに』(大寮歌集(H16)236頁)
  第四十二回紀念祭寮歌(昭和7年)『舊き星』(大寮歌集(H16)238頁)

2024年12月16日

今回歌う寮歌:『嗚呼先人の』(第四十五回紀念祭東北大寄贈歌、昭和10年)

 今日のテーマは「歌詞の配分に関わる諸問題」です。
 以下は大正末年までの広義の五七調寮歌(「五七」で始まるもの)を羅列します。
  『嗚呼先人の』の変遷(昭和10年から令和まで)

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