教材 Horizonte

Horizonte
表紙

はしがき

ドイツ語を通して、より広い新たな地平へ

この読本は、文法をひととおり学び終えた人を対象に、<ドイツ語を通して何かに気づき考えてもらう>ことを目的として編まれている。

身近なことから地球規模の問題まで、何かを感じ取り視野を広げてもらうために、あるいはそうした事柄についてじっくり考えてもらうために、さまざまの領域からテクストを集めてみた。目次をご覧いただければお分かりになると思う。Horizonteというタイトル自体が「地平、視野」を意味する。心身を揺り動かされ、自ら思索を巡らすことで、初めて新たな地平はひらかれる。そのきっかけになればと念じてテクストを選定した。

したがって本書は先行版の Prismen とは少々趣をことにする。前書では現代ドイツを知るためのテクストが多く採られていたが、今回は18世紀後半から現代まで幅広い時代の多様なテクストが並んでいるので、ドイツ語圏の文化を広く紹介する役目も果たしている。

遠い過去から現在に至るまで、ドイツ語という言語で、じつに多種多様な経験と思索、知と感情が表現されている。その豊かな果実をもとに本書は編まれている。存分に味わっていただければと思う。

知と心のレッスン

残念なことに近年、大学での語学教育を単なる「使える外国語教育」へと矮小化して考える向きが多い。大学に入り初めて学ぶ外国語については、豊かな可能性を無視した考え方だと思う。幸い東京大学教養学部では、今年度よりクラスの人数が、不充分とはいえ小人数化された。学生と言葉を交わしながら挑発し考えさせる環境は整いつつある。

ドイツ語の規則・論理、表現パターンを復習しながら、言い表されていることを理解し、それに対して自らの考えを言語化すること。 Horizonte は、そのような知的な作業の場を念頭に置いて作成した教材である。語学は論理的思考、忘れ去られたものや異なる世界への想像力、また日本語能力の開発にもつながる総合的な教科である。工夫をこらせば、これにまさる<知と心のレッスン>はない。

本書の構成について

本書は第I部と第II部に分かれている。第I部には文法の学習を終えた段階で、その復習を兼ねて使うことができるテクストを選んである。ただ、本書の趣旨からして、難なく読めるという訳ではない。したがって第I部には注を丁寧に付けた。

本書は第I部と第II部に分かれている。第I部には文法の学習を終えた段階で、その復習を兼ねて使うことができるテクストを選んである。ただ、本書の趣旨からして、難なく読めるという訳ではない。したがって第I部には注を丁寧に付けた。

第I部の第4章に収められた「アフォリズム」や「ことわざ」はどれも短い。気分転換に読むなど、さまざまな利用法があるだろう。短いものに限らず、どの章のどのテクストも、順番にとらわれず自由に読んでいただければと思う。

第5章の「歌の翼」には、簡単に読める詩が収録されている。いずれも作曲されている詩で、しかもよく知られた曲である。市販の音楽CDも手に入りやすい。授業では読むだけではなく、CDで聴いてみることもお勧めする。

第II部は文法終了直後の学期には向いていないが、第I部でドイツ語の表現になじんでくれば、その学期の後半には使える難易度のテクストも収めている。なかには難しいテクストもないではない。カントの「啓蒙とは何か」などを授業で使う場合には、おもに教える側が解説しながら進めることになるだろう。このような方式は、第I部を含めて他のテクストについても、時には行われて良いと思っている。

CDについて一言。あまりに短いものや、朗読に適さないテクストは収めていない。第I部でいえば第4章の「アフォリズム」と「ことわざ」は割愛した。第5章は割愛した。第II部では第3章の「啓蒙とは何か」と「コミュニケーションと公共性」、第4章の「持続可能な成長とは」、第5章の「素顔の若者たち」「シンボルとしての風力発電」は収録していない。なお、収録されているテクストについては、表題の上にトラックナンバーを挙げてある。

テクストの表記および略号など

テキストの省略に関しては[…]の記号を用いた。また、学習のための教材であるので、利用者の便宜を考えて、特殊な記号などについては編者が適宜修正を加えた。出典は巻末に示してある。それぞれのテクストが新正書法によるか旧正書法によるかは解説に明記した。注に用いた文法用語は、なるべく一般的なものを用いるようにした。注の表記・記載方法は、できる限り統一をはかったが、分りにくくなる場合は、異なる記載方法がなされている。ご了解いただければと思う。

なお、使用されている略号だが、たとえばj4は人を表す4格、et4は事物を表す4格、sich4は再帰代名詞4格を意味している。また分離動詞は前綴りと基本動詞の間に | を入れて表示してある。m.は男性名詞、f.は女性名詞、n.は中性名詞を、pl.は複数形を表している。

テクストの選定に当たってはドイツ語部会の多くのメンバーから提案を受けたが、最終的な選択と短縮、注の作成、CD収録の立ち会いは、大石紀一郎、鍛治哲郎、高橋宗五、田尻三千夫の編集委員4名が協力して担当した。同僚のHermann Gottschewski, Dagmar Oswald, Sven Saaler, Gabriele Stumppの各氏からは貴重なアドヴァイスを受けた。校正にも協力をえただけでなく、CD録音の際には朗読をお願いした。

東京大学大学院総合文化研究科の大学院生、青木葉子、山川智子、斉藤拓也、宮崎麻子の皆さんには、初期の段階で注作成を手伝ってもらった。編集委員が作成した注の検討と校正に際しては、青木葉子さんと元助手の稲葉治朗さんから助力をえた。CD収録作業は、技官の野谷照男さんの全面的な協力と斉藤拓也さんの助力によって可能となった。その他、編集作業にともなう事務については、ドイツ語部会嘱託の桜井直子さん、村田美八子さんのお世話になった。

また、テクストの内容について、編集委員の質問に快く答えてくださった教養学部の同僚と元同僚の先生方、そしてテクストの著者・関係者にはこの場を借りて謝意を表したい。東京大学出版会の羽鳥和芳、小暮明両氏には、さまざまなご助言をいただいた。とくに小暮氏にはなにかと無理を聞いていただいた。感謝申し上げる。

(編集委員を代表して:鍛治哲郎)