古典語初級(ラテン語)

文字と発音についてのまとめ

○ラテン語の文字

古代(紀元前1世紀を中心に)のラテン語には次の23文字がありました:

ABCDEFGHIKLMNOPQRSTVXYZ
その中で母音は
AEOY(Yはギリシア語からの外来語のみに使われます)
子音は
BCDFGHKLMNPQRSTZ(その中のKは極めてまれに、Zはギリシア語からの外来語のみに使われます。Hを子音に含まない場合もあります。XはCSの書き換えで、二重子音。)
IとVは場合によって子音にも母音にもなります。現在(私たちの教科書を含めて)ラテン語を書く時にVを“u”と“v”の様に、母音の場合と子音の場合を書き分けることが多いですが、これは近代の習慣です。一部の著作ではIも“i”と“j”の様に書き分けられていますが、それはあまり一般的ではありません。

古代には大文字しかなく、言葉と言葉の間にスペースを入れる習慣もありませんでした。中世には主に小文字が使われました。そのころにスペースの置き方も決まりました。大文字と小文字の使い分け、コンマやピリオドの打ち方などは時代によって、または地方によって異なり、現在も統一されていません。

○古代ラテン語の発音

古代ラテン語の発音については、時代差や、細かいところに関して不明なところもありますが、大体以下の通りです。

AEIOUの母音はイタリア語の母音に近いもので、日本語のアエイオウのように発音しても問題ないでしょう。ただし音節の単位をよく聞かせるためにIとUを日本語のイとウより丁寧に発音する必要があります。つまり「です」(desu)のu、「して」(shite)のiは日本語の発音ではよく省略されますが、このような省略はラテン語では決して許されません。例えばarcusとarxはカカカナにすれば両方とも「アルクス」になりますが、ラテン語ではuがあるかないか(従って二音節語か一音節語か)で違いがあって、その違いを発音でも十分聞かせなければなりません。

母音に長母音と短母音があるのは日本語に似ています。教科書には長母音の上に棒が付いています(āēīōū.フォントの都合でâêîôûまたはáéíóúを使う資料もあります)。一般のラテン語文献では母音の長短を書き分けませんが、特に韻文では母音の長短が韻律をなしているので、発音でそれを丁寧に使い分ける習慣を身に付けた方が良いです。

二重母音としては AE OE AU EU UI EI があります。そのうち最初の三つはよく見られますが、後の三つは特定の事例に限って使われます。二重母音の発音は二つの母音をつなげたものと同じですが、韻律上では一つの長母音と同じ扱いになります。(例:haeはハエという発音で一つの音節ですが、eaはエアという発音で二つの音節です。ただし、普通二重母音になる組み合わせでも、二重母音にならないで別々の音節として扱われる単語があります。)

子音の発音はドイツ語のそれに近いです。ただし以下の発音に注意してください。

○音節の長短

音節には長音節と短音節があります。長音節は短音節の二倍の長さになっています。長音節は原則として(1)長母音または二重母音を含む音節(2)子音で終わる音節です。それ意外の音節は短音節です。言い換えれば短母音で終わる音節は短音節、それ以外の音節は長音節です。これは非常に簡単で分かりやすいルールですが、それを扱うのには音節の切れ目について正しく判断しなければなりません。「母音の前の子音は次の音節に属する、他の子音は前の音節に属する」という原則がありますが、それには様々な厄介な例外があります。それについてはこの教科書の第34章が詳しいです。

○アクセント

アクセントの種類(強勢アクセント、または高低アクセント)については様々な意見がありますが、多くの学者は「強勢アクセントだった」と信じています。アクセントの位置については稀な例外を除いて簡単なルールがあります:

○古代後期、中世、近代のラテン語の発音

古代後期からラテン語の発音は地域ごとに様々な風に変わりましたが、特に、

  1. 母音/音節の長短がなくなります
  2. CとGの発音は現在イタリア語、英語、ドイツ語などで使われる発音に変わります
  3. 二重母音が変化して、短母音になります(ただしすでに古代にそのように発音されていたという節もあります)
などの様な変化が起こりました。私の授業では「古代ラテン語」の発音に近いと思われる発音を使います。