Hermann Gottschewski

2011年夏学期『比較芸術』「ベートーヴェンのピアノソナタとその周辺」

５月 12日

第28番のソナタ（作品101）

楽譜

自筆譜：http://erato.uvt.nl/files/imglnks/usimg/8/84/IMSLP51292-PMLP01485-Op.101_Manuscript.pdf

初版: http://imslp.info/files/imglnks/usimg/9/94/IMSLP51293-PMLP01485-Op.101.pdf

Schenker版: http://erato.uvt.nl/files/imglnks/usimg/b/bf/IMSLP00028-Beethoven__L.v._-_Piano_Sonata_28.pdf

今日聴く録音　Claudio Arrau (1965 録音)

http://www.youtube.com/watch?v=am1ch9zsG2M

http://www.youtube.com/watch?v=HcOQRBh0ico

http://www.youtube.com/watch?v=bAlwRJ7Y1W8

http://www.youtube.com/watch?v=Ixf_WDQUoUE

このソナタではドイツ語とイタリア語のテンポ指示が両方付けられているのが面白い。（それらはただの「直訳」ではない。）また初版のタイトルではフランス語のpour le Piano-Forteとドイツ語のfür das Hammer-Klavierが並び、これが（少なくともベートーヴェンの作品の中で）Hammerklavierという単語の初出だと思われる。

ソナタ全体とそれぞれの楽章の音楽形式

初期や中期のソナタでは第一楽章が「アレグロ」タイプが一般的で、そうでない場合（作品26、作品27の両曲、作品54）は「例外」と見て良い。（作品13などの様にゆっくりとした導入部を持つ曲もあるが、その導入部にはやはり「アレグロ」タイプの楽章が続く。）それに対して、後期のソナタでは第一楽章のタイプが非常に自由になり、作品101、109、110はすべて速いとも遅いともいえないcantabileの始まりを持ち、それは「例外」としてもはや見ることができない。

作品101のソナタの第二楽章はABA形式の「マーチ」として四楽章のソナタに常に含まれる「舞曲」として解釈できるだろう。つまり、他のソナタの「メヌエット」や「スケルツォ」に相当する楽章だろう。（ただし作品26のソナタの様にメヌエットと別にABA形式の「マーチ」を含むソナタもあり、作品31/3の様に「スケルツォ」―これは２拍子でABA形式でもない曲としてスケルツォとしては例外的なもの―と３拍子の「メヌエット」が並立している。）

初期の四楽章のソナタではこの舞曲が緩徐楽章の後で、第三楽章になるが、19世紀のソナタでは第二楽章と第三楽章の順番が変わって舞曲が第二楽章として位置することが多く見られる。それが第一楽章がcantabileになる傾向と結びつく現象だろう。

またベートーヴェンでは作品27/1以来、作品53（ヴァルドシュタイン）でも見た様に、緩徐楽章が自立しなくなり、終楽章の導入部になる傾向もある。作品101でもマーチの後ではアダージョがあるが、それが終楽章の導入部の役割を果たす。その導入部の後に第一楽章が引用されるというのはベートーヴェンのピアノソナタで唯一の例である。第四楽章の展開部の始まりにも（リズムを変えた形で）第一楽章の引用がある。

作品101のそれぞれの楽章は（終楽章の導入部であるアダージョを除けば）すべてが「ソナタ形式」と何かの関連があり、その詳細は授業で分析する。（次の授業の準備でもある。）第一楽章に特記すべきところは、和声的な形式としてソナタ形式のすべてが揃っているのに対して、コントラストを成す「第一主題」と「第二主題」が存在しないことである。