東京大学 2019年度S-セメスター 水曜日2限目
   教員名:Hermann Gottschewski
   連絡先:gottschewskiアットfusehime.c.u-tokyo.ac.jp
   科目名:芸術作品分析法III
   テーマ:バッハのフーガの構造(鍵盤楽器のためのフーガを中心に)

授業の目的

バロック時代の音楽には「フーガ」というのは、その時代を特徴付ける音楽形式の一つである。フーガを作曲したバロック時代の無数の作曲家の中でも、その時代の最後に位置する、その頂点とも言えるJ・S・バッハの作品にはフーガ様式が特に重要視されている。フーガ様式は様々なジャンルの作品(例えばヴァイオリンのソロソナタ、カンタータにおける合唱曲など)に扱われているが、この授業では主に鍵盤楽器(オルガンを含む)のための作品の中で、独立した楽章として「フーガ」というタイトルを持つ曲を扱いたいと思う。代表的な作品は、オルガンの場合は主に「前奏曲とフーガ」などと題される作品、チェンバロの場合は『平均律クラヴィーア曲集』第1巻と第2巻に含まれている「前奏曲とフーガ」、また『フーガの技法』などである。授業ではその中でできるかぎり多様な作品を扱いたいと思っている。

フーガはポリフォニーを基本とする(複数の「声部」から構成される)音楽構造を持ち、両手(+足)で演奏されても、古典派のピアノ曲と違って、「右手」と「左手」のパートを持つ訳ではない。鍵盤楽器のためのフーガは3声、4声と(主にオルガンのためのフーガで)5声のフーガが多い。どの音を右手、どの音を左手で弾くかは、原則的に演奏者の決めるところであって、楽譜がそれについての指示をしない場合が多い。従って鍵盤楽器のためのフーガの楽譜を読み解くのはある程度の予備知識が必要である。(ただし『フーガの技法』においては普通の鍵盤楽器の記譜法が使われていない。)

この授業では現代のエディッションのみならず、バッハの自筆譜や当時の写譜と様々な歴史的な出版譜も見ながらまず「楽譜の読み方」から入りたいと考えている。

その次にはフーガの「技法」、つまり基本的の音楽構造と様々な特殊のフーガ構造について学び、具体的な事例で確かめる。

次に代表的なチェンバロとオルガンのフーガを比較し、使われている楽器(チェンバロまたはオルガン)の特徴がどのようにフーガの形式に影響するかを考える。

最後には具体的な曲を分析する。それは主に学生のプレゼンテーション(とレポート)のテーマとしたいと考えている。フーガの分析するときには、まずどのような技法がどのように使われているかを確認し、その後はその曲の独自の性格(それは必ずしもフーガ様式の概念のみで説明されない)を描写しなければならない。