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Prismenインタビュー

(教養学部報459号、2002年10月2日 より転載)
(回答者:杉橋陽一教授)

──今回ドイツ語部会は『Prismen』という共通教科書を出されましたが、その目的は何ですか。

経緯からお話しますと、すでに昨年、フランス語部会、中国語部会がそれぞれ教科書を出しましたが、それはわたしたちドイツ語部会にも大きな刺激になりました。わたしたちも、東大駒場の学生の皆さんがドイツ語を学ぶのに最適のリーダーを作ろうと思ったのです。そこでドイツ語部会から八人が集り鳩首協議をはじめたわけです。その結果、われわれとしては「新しさ」を強調したいと考えました。現在使われている新しいドイツ語、そしてそのドイツ語を通じて示される現代世界の新しいことがらです。あるいはドイツ語圏文化の多様さを新たに示すことです。そうした新機軸を打ち出しドイツ語教育を活性化することが目的といえましょう。

──すると内容的には盛りだくさんということに……

その通りです。したがってこの教科書へのアプローチの仕方はいろいろ可能ですので、これを使う学生さんも先生方も工夫のしがいがあります。統一的に使うことでどのような成果が生まれるか、とても楽しみです。 また、ドイツ語に興味をもつ一般の人にとっても有益な読本になれば、とも考えました。テキストの難易度もわかりやすく表示してありますので、楽しみながら学習できると思います。

──この教科書の内容的な特徴というとどうでしょう。

「序文」にも書いておいたことを繰り返しますと、まず「アクチュアリティ」と「多様性」が特徴になると思います。第二次大戦以前に書かれたものもテキストに選ばれておりますが、新しいものが圧倒的に多いです。インターネットから取ったものも割合ありますし、ドイツ政府の公式サイトに載っている演説も採用されています。

──外国人教師の方々も文章を寄せられたそうですね。

ええ、三人の方にお願いしました。われわれ八人の編集委員が討論を重ね九つのテーマを設定したのですが、そのテーマに沿った内容で、また、その先生の独自性が発揮できるようなものをお願いしました。

──サッカーについて書かれた方がいらっしゃいますが、2002年6月のワールド・カップと関係があるんですね。

いえ、必ずしもそうではなく、ドイツの若者たちを熱中させるスポーツとして書いていただいたのですが、今回ドイツチームの頑張りはすごかったですね。せめてオリヴァー・カーンの雄姿を写真でのせようかと思ったのですが、写真の権利関係のことでそれは難しいので、あきらめました。次のドイツ大会が楽しみですね。

──ただ如何でしょう、こうしたリーダーはえてして、和訳してしまえば終わりで、現に、先行の第二外国語教科書については、インターネットにその訳文すべてが出されていると聞きましたが。

それは学生さんの誤解に基づいていますね。ドイツ語のテキストが問題になれば、まずそれを日本語にするという作業はたしかに重要です。しかしそれですべてではありません。日本の作家の文章がドイツ語訳といっしょに掲げられているという章もあります。この場合、ドイツ語のテキストと日本語のテキストの両方があるところから、授業は始まるのです。前述のように、授業はいろいろありうるでしょう。

──もうひとつの「多様性」とはどういうことでしょう。採用されたテキストがアクチュアルでいわば取れたての新鮮なものだということは、悪く行くとテーマの扱いが単調になりそうにも思えますが……

たしかに、テーマこそ異なれ、文体はどこも均質なものになって全体は新聞のようだ−そんな風になる危険はあるでしょうが、これは八人の編集委員で作りましたので、テキストの扱い方は各人各様です。注釈を沢山付けている方もいますし、要所要所に簡素な注を付け、さっさと先に進めるよう配慮している方もいます。あるいは、テーマに即した事項的注釈によりエネルギーを注いだ方とか、ですね。

──たしかに編集委員の方々の専門は随分いろいろのようで、それゆえ注釈の仕方も各人各様なんですね。

ええ。外から見ればわれわれはドイツ語の先生として一括りになるかもしれませんが、専門的には異なっています。音楽、建築美術、ドイツ法制史、言語学、文学研究などさまざまです。わたしも、自分の注釈の仕方が他の方々とかなり違っているのに気付き、それこそ開けてみて驚いたという感じです。この教科書作りは、わたし自身にとってもおもしろい経験でした。

──『Prismen』というのは「プリズム」という意味ですね。

ええ。本書がプリズムになり読者は白色光として中に入ってゆくのでしょうか。あるいは読者がプリズムとなって白色光の教科書から、それまで見えなかったスペクトルを分散させることができるでしょうか。いずれにせよ、教科書と読者とが生産的な関係を築くよう祈っています。